日本建築学会東北大会梗概
吉阪隆正の住宅

正会員  ○間下奈津子*1
同     鈴木 恂*2
同     古谷誠章*3
1.はじめに

吉阪隆正はその生涯の中で建築家、都市計画家、登山家、国際人、教育者など多くの顔を持つ人物であったが、その中でも住宅に関する理論体系は、建築に止まらず、まさに彼の哲学と言ったものが凝縮されている。本論文では彼が生涯を通して手がけた「住宅」に関する作品の整理を目的とする。

2.方法

吉阪隆正、吉阪研究室、及びU研究室で1946年から1980年に吉阪が死去するまでに行った建築プロジェクトは全部で240件あり(計画案、増築、改築も含む)、その中で住宅やそれに付随するプロジェクトは42件である。そのうち建築関係雑誌(注1)に発表された作品は確認できた範囲では16件であった。また1950年代半ばに作られた吉坂自邸、浦邸、ヴィラ・クウクウの三件についての資料は多くみられたがそのほかに関しては豊富とは言い難い。16件ある内でもそのほとんどは1960年代までに限られている。又他の26件についてはメディアからの情報は得られなかった。そこで現存する図面を資料として収集、整理をした。今回集めた図面は主にU研究室に残っているものから各階平面図、4方向立面図、2方向断面図であり、詳細図等は対象外である。

3.結果

収集できた図面は表1の通りである。
清水邸、大野邸、磯邸、大津邸、小林邸、西山邸、腰塚邸、芳川邸、森岡医院及び自邸、中井邸に関しては図面の収集により明らかになった。雑誌からの情報も含め、全貌が明らかになったものは自邸、浦邸、吉崎邸、十河邸、ヴィラ・クウクウ、丸山邸、三井邸、石川邸、竹田邸、赤星邸、自邸書庫、樋口邸、清水邸、大野邸、丸山邸増改築、磯邸、大津邸、小林邸、西山邸、U研究室アトリエ、三沢邸、芳川邸、中井邸、自邸改造の24件(改築増築でのだぶりを抜かすと22件)である。

但し、
1.自邸書庫は計画案の段階の図面であり、実際建てられたものとは構造が異なる。
2.吉崎邸は建築文化5609で吉阪が設計メンバーに入っていないが、ここでは吉阪が影響を与えた可能性を考慮に入れ、表に入れることにした。

4.考察

3の結果にて示した20件で考察する。
平面図が直行グリッドに従ってかかれているもの、斜行グリッドに従ってかかれているもの、曲線を使用しているもの、立面図、断面図が直交グリッドに従ってかかれているもの、斜行グリッドに従ってかかれているもの、曲線を使用しているもので分類する。
次に吉阪隆正の活動を年表、旅行、研究室メンバーの構成により第一期から第五期までに分類する。
第1期 1952年まで 大学院修士論文でのモンゴル旅行、今和次郎の元での民家の調査、コルビュジェ事務所での経験など、その後の設計や論文の基礎が築かれる。
第2期 1953-1957 吉阪隆正研究室を設立、U研究室の核となる創立メンバー+α(大竹十一(54-現在)城内哲彦(55-64)滝沢健児(54-64)松崎義徳(55-現在)岡村昇(54-56、64-現在)渡邊洋治(55-57)山口堅三(55-61))が携わる。
第3期 1958-1962 大きな旅行が重なり、吉阪不在での設計時期。第2世代のメンバー(鈴木恂(59-61)沖田裕生(59-61)戸沼幸市(59-72))が入り、大きなプロジェクトや、山小屋の設計を多く行う。
第4期 1963-1971 U研究室設立。第3世代のメンバー(樋口裕康(65-71)大竹康市(65-71)富田玲子(65-71)大高昭雄(63-69)矢内秀幸(65-69)竹内雅海(69-73)上貞幸丕(70-76)三宅豊彦(67-現在)沼野洋(68-現在)横林康平(64-92)下間淳(70-82)岡本愼子(69-92))が加わった時期である。
第5期 1971-1980 第4世代(塩脇裕(76-81)、竹下昌利(77-81)、竹本忠夫(76-82)、田川宏(76-82)、西幸一郎(77-82)、福富政次郎(77-82)、島田幸男(73-84)、齋藤祐子(77-84))のメンバーが加わる。この時期は都市計画に重点が置かれた。
以上表にまとめる。
 表より、第2期では第1期での経験を生かし、多種多様な実験的試行を行っており、時代的にも最小限住宅が隆盛を極めていた時期でその影響が見られ且つ、影響を与えた。第三期では住宅の設計は三井邸一件のみである。続く第四期では平面図でも立断面図でも斜行グリッドを多く取り入れ、コンクリートの彫塑性を生かした住宅が主流となり、第三期での性質上斜めの形態を取り入れやすい山小屋の設計の影響が見られる。また、吉阪の設計方法が細部の設計までを決定するのではなく、彼の哲学である不連続統一体という考え方による設計のため、そのときの研究室メンバーの個性が現れる。よって後に象設計集団となるメンバーが入ってきたことの影響もうかがえる。第五期では第四期での彫塑性を特化した三沢邸がつくられ、その一方で木造在来工法の住宅が設計されている。


注1)参考にした建築関連雑誌は以下の通り
建築、新建築、SD、都市住宅、建築文化、国際建築、室内、建築知識
*1 早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修士課程
*2 早稲田大学教授
*3 早稲田大学教授