Fatehpur Sikri


ファテプル・シークリー Fatehpur Sikri, India 

夕陽に焦がれた宮殿を貫いて一陣の風が吹き抜けていく。遠目には灼熱色の石塊に埋められているが、一歩遺構に入ると風が縦横に抜けていく清々しい空隙に包まれる。そこに興味をもったのは、それらの平面図をみた40年も前にさかのぼるだろうか。以来そこは私にとって、インドの空間を想像するときの原点のひとつになっている。単純にいうと、ヒンドゥーの構造とイスラムの造形が木造家屋の形に溶解した建築群だが、私にもっとも強く訴えてくるのは、仏教のもつ風の抜ける音無しの空間である。

どこの歴史にもあることだが、王はときとして特異な情緒を壮大な建築に刻みつけるのであるが、アクバル大帝もその不思議をものにして、かつ完成を見ずにそれを放棄した曰くをもつ。中庭に建つパンチ・マハルの5層の楼閣、それはただただ「空間の層」でしかない。コルビュジエがチャンディガールに風の塔を立てたのと似て、王は中心に風と影の象徴が必要だったのであろう。