Potala Palace


天上の徘徊 Lhasa 

途中、成都で一泊したとはいえ、ラサでは早々と高山病らしい目眩におそわれた。見るべきものが多いのに、それらすべては山上にあり一層難儀することになった。それでも、向こうの建築学会の丁重な案内があって、とくにポタラ宮殿を隈なく迷い歩くことになる。薄暗さのなんと重いことか、香の湿った強臭、上下する梯子を使った迷路の彷徨、お蔭でどれもこれも身体に響いて忘れられない。何処に行っても修理中で、屋上中庭の土間を踏み固める人々の歌と地響き、天井や欄間に塗りたくられる真っ赤な塗料の色と匂いも、また身に沁みたのである。ただひとつはっきり瞼に焼き付いた光景は、畏友宮脇檀と時間を盗んでポカラの周辺を徘徊したときだ。しっかりと裾を広げて聳え建つ天上の聖域が、朦朧とした身体に飛び込んで戦慄させた。ただそのときすでにポカラの裾をべったりと被うチベット族の家塊が妙な静けさのなかで扉を閉ざしていたことも忘れられない。