Ho Chi Minh


ヴィエトナム ホーチミンの葉蔭にて

アジアの中で、ヴェトナムは旅行を控えてきた国であった。訪れてよいものかという迷いは、つい一昔前の傷跡に触れまいとするエゴ以外のなにものでもないのだが、永くそう感じてきた。ヴェトナムの名画を観て、この国のうまい料理を食し、古都の遺跡調査をする僚友の話を聴き、この国に熱心な友人の勧めがあって、ようやくここにやってきた。

着いた夜のホーチミンは眩しかった。凄まじい人の群、群衆の疾走、うなるオートバイ、そのマシーンにしがみつく一団の家族、曲乗まがいの鍔迫り合い。街角に集まってクリスマスを祝う子供たちの群に、お揃いの赤頭巾をかぶった家族の笑顔。この渦に巻き込まれて、心底ほっと一息する。

メコン河口のニッパ椰子の森を訪ねた後、雑貨で膨らんだ街の市場を散歩し、古寺に立寄って線香に咽せる。泥の匂いのする路地をぬけて、植民地様式の館の中庭で寛ぐ。そこでもう一息。いまバナナの葉蔭で、フォー(Pho)とかをすすっている。